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信州石仏の背景

信州石仏の背景

 今年の九月の終り頃、朝日新聞日曜版にのる「日本の年輪」取材のため水野という記者が松本にいる私の所へやって来た。「野の仏」に就いて取り上げたいので話を聞きに来たというのである。そこでいろいろと話し合ったが、私はどちらかといえば民芸的な立場から主として石仏を見て来た人間であるため、信州の石仏についての民族学的な研究は不足で伝説的または歴史的なことになるとやはり他の研究家の助けが必要となるのである。そこで日頃の知己ではあるがまだ詳しい話をし合ったことがない、ちょうどこんな機会に是非お話を伺いたいと思って伊那に住む向山雅重さんのお宅に水野記者を案内したのである。
 上伊那、宮田町郊外のお住いは夫人とお二人だけで民族学者らしい静かな生活をされている。そこでいろいろのお話の末、塩ということから発して、天保年間の飢饉の話に発展したのであった。幸い先生が以前から蒐集しておられた文献の中で「天保雑記」という今の伊那市、当時の伊那郡、宿の町に住んでいた町医者須田経徳という人が天保八年(一八三七)の飢饉の際、その有様を書残したものの披見を得たのである。その中に「乞食みな農人なり」「川に子を流すこと折々なり、小児、川に流れくるもの、ところどころにあり」というような個所を読むことができた。農人というのは百姓のことで、自分の在所には食べるものがなくなって、食を求めて流亡するものはほとんど百姓達であったということである。また、雲井龍雄の捨子の詩にもあるように「此身飢ゆればこの子育たず、此の子捨ざれば此の身飢ゆ」というように最後には偶然でも誰かに拾われて生き延びられるかも知れないという気持で天龍川に苫船を作って流したかも知れないし、芝居の佐倉宗五郎に見られるように、自分の国では食べるものがないから、百姓が一家共々他国に流民となって放浪することさえも藩主が禁じた上、年貢までとり立てられたら死ぬより辛いことになる。自分は死んでもよいが天龍川を流れて他国の食糧のある所で人に拾われる万一の可能性に委ねて心を鬼にして可愛いい吾子を流したのかも知れない。どちらのことにせよ悲惨この上もない。
 また飢饉が深刻になると最後に求められるものは塩気というもので、塩がないと人間は馬鹿になるそうだ。脳の働きがなくなって来るのである。向山さんの知り合いの人は戦地で食糧も塩もなくなって苦労したが兵士の数を数えるのに二十名迄の数字が正確にいかなくなるそうだ。乞食になった窮民は塩も食糧もなく、瘠せて下腹の牌臓がはれて来て、色が黒くなって餓死して行く様も雑記に見える。地獄草紙の亡者や餓鬼の姿はこれをとったものであろう。それでこの医師の処へ窮民が来て最後に求めるものは米ではなく、「雑仕の水」を求むとある。雑仕の水とは台所で洗い流す水のことで、昔は流しの下に桶をおき流す水をためて畑にまいたそうだが、その中には幾分の塩気がある。
 その次には糠をねだるが、雑仕の水の次には田舎の炉側に敷く藁で、昔は主婦が坐る座をかか座とか横座と言い、そこには一番いろいろ汁のこぼれ等があり、塩気を含んでいる。そこの部分をとってきざんだうえ、煮出して塩気をとるというように、如何に最終的には塩というものが大切であるかがわかるのである。昔の人はこの塩を味噌にして蓄蔵した。十年味噌というような塩辛い豆半分に塩半分というような味噌を作ったのも飢饉に対応する方法であった。向山さんの住む伊那地方でも戦時中食糧が不足した時、物々交換で塩一升が米二升にまでなったが、天保の飢饉でもそれと同じ記録があるそうだ。百姓で物持ちと言われるものは倉に味噌と焚物を多くもったもののことを昔はいったようであるが焚物も大切なもので、映画のセットなどで見る窮民の家の様子は大抵、戸も障子もない、皆焚いてしまっている姿である。しまいには屋根だけ残して床板迄とって焚いてしまうのである。田舎ではとにかく、今の時代、ガスやプロパンがなくなってしまったら都会の人はやはり自分の家の家具や建具まで焚かなければいけなくなるであろう。
 さて本題に返って考えてみると、このような悲惨極まる庶民の暮しの中に身近な宗教が求められたことは当然の成行であった。しかし神道や仏教は当時、特権階級のものであったため、庶民には何か手のとどかぬ感じで、教理もむずかしくなじめなかった。そこで庶民は、加持祈祷など、身近ななじみやすいものに縋るようになったのではなかろうか。例えば、川に流した吾子の行方、またはその悲惨な死を考える時、地蔵様でも観音様でも作って一日に何回でも祈らずにはいられなかった気持は充分に察せられるのである。やっとのことで生き残ることのできた人々が失った肉親に対する悲惨な思い出には胸をかきむしられ、また或る時は止むなく見殺しにした者達に対する悔恨と、残愧を受け止めてくれるものがあったら幾分でも人は慰められるに違いない。
 石川啄木の歌に「涙、涙、涙なるかな、それをもて洗えば心おどけたくなり」とあるように悲哀の極まるところむしろおどけたくなる心があの瓢逸な形の石仏を作り出したともいえるであろう。
 吾が思師柳宗悦先生は人も知る朝鮮の高麗、李朝の焼物の世界的紹介者であり、それまではその点を認める人は更に少なかったが、その柳先生が朝鮮磁器の淋しい美しさに涙を流されたという話を聞いたことがある。このような淋しい、哀しさの溢れた焼物を作り出した且つての朝鮮民族を思う涙であったといわれている。また先生は、民芸の美は歴史的に見ると民衆の辛い苦しい時程美しいものが生れていることは悲しいことだと言われたが、やはり信州の美しい石仏の陰には当時の悲しい思い出が包まれていることが想像されるりである。
 試みに、当地方の凶年の記録を松本市史から拾って見ると天明三年から六年に至る大凶年には米の値段が平年の八倍に上っており、百姓の餓死および疫死するもの多く、所々小騒動おこり人心動揺すとある。また当地方としては前代未聞の大凶作となった天保の飢饉は三年より八年に亙り、窮民は山野に草根を掘り、春は木の芽を摘んで飢えをしのいだが、町や在より乞食に出るもの多く、秋冬に至り疫病と飢寒のため死者続出した。木の芽草の根喰い尽し、窮民道塗に号哭するの惨状を呈し、八年に至って回復したが、その年藩主松平侯が卒して全久院で施餓鬼執行、一人に付米三合宛呉れるということを聞いて飢民は争い集まり其の雑踏のため死者を出したという記録もある。
 次に信濃教育会編の農村信仰誌、庚申念仏篇によれば、当松本平の念仏供養塔は寛文年間から明治に至る迄二〇〇余年間に四〇九が建立されており、その内最も多いのは寛政より文化(約三十年間)、一〇三、次いで文政から天保(二十五年間)が八一、明和から天明(二十五年間)四二となっている。更に概括すると寛政元年から文政十二年四十二年間に一七五となる。最も石仏を多く作った寛政年間は天明八年で終った災厄の後をうけ、凶年が収まって庶民の平穏な暮しが回復して来た頃である。凶年の後、庶民はどうすることもできぬ自然の災厄の前に大きなものに対する小さな人間の存在の哀れさを知ったことが宗数的な遺物を多く残すようになった最大の原因と考えられる。その後これに加えて六字の名号碑すなわち南無阿弥陀仏の石碑が他の地方より多く見ることのできるのは当時の寺院の惰落に抵抗して立ち、諸国遍歴修業に一生を捧げた遊行上人達の影響が強く当地方の庶民の信仰心に寄与したためと考えられる。それは幡隆上人、徳本上人、徳住上人等で、この名僧達ののこした名号碑を見ることができるし、それは天保の凶年と前後している。
 しかし何といってもいろいろの石仏が最も多く作られた寛政時代は天明凶年の後を受けていると思われるし、
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