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五十年前の本町

五十年前の本町

 夏の夜の縄手通りの人ごみにまぎれ入って見ると、まったく見知らぬ人ばかりで、東京や大阪の繁華街の人群のなかにいるのとおなじことである。
 いったいいつごろからこんな大勢の人達が松本にいることになったのかと不思議に思われるのである。しかし過ぎ去った長い年月のことを考えると、戦後に生まれた赤ん坊でも今は立派な青年に成長しているのだし、またこの連中が最も多く外出するはずであるから、いまさら驚くには当らないと気がつく。
 ましてこの町に生まれながら、今もこの町に親父が始めて今は三代目の呉服屋があるとしても、やはり何十年も本町から離れている身にとっては、エトランゼの感覚であるに違いない。しかも若く生まれ変り、近代化された本町は昔見慣れて、身体のなかに浸み込んでいる感覚とはおよそ世界が違うものになっていても、それが当然の現実である。
 眼をつむって思い出す町の姿はずっと幼い物心のついたころの印象だけが深く思い出の中に浸みこんでいて、その姿を変えないのである。

 その町を行き文う人の姿もまったく昔のままである。男も女も和服姿である。荷馬車の轍のついた土埃りの街を歩いて行くと、大きなのれんのかかった出入口に近い欅の厚い上り框のついた店先には番頭や小僧が並んで坐っている。奥まった薄暗い帳場にいるその家の主人の姿がかすかに見える。「お寄りっ」「お吸いっ」寄って煙草でも一服して行けという掛け声がかかって来る。よく見ると、その店の上り框には着物の裾を帯にはさんだステテコ姿と白足袋に草履ばきの兄の姿が眼に映る。フォードのガタガタの幌型自動車が一日に一回でも通れば、皆の眼は一勢にその方に動いて、子供達はいそいで店先から走り出したものである。そこで微かにただようガソリンの匂に鼻をヒクヒクさせ、うっとりとして、後からくる自転車のベルの音など知らぬ顔である。
 店通りの裏に眼をうつせば、立ち並んだ土蔵が作り出した谷間のなかに暗く流れる溝川にそった日の当らない小路が続いている。日本髪を綺麗に結って、よそ行きの着物を着た町のおかみさんや若い嫁さんがこっそり歩いて行く姿が見える。町内の女達は表通りを避けて、常に裏口から出入していた風情がそこにある。どこそこの裏の土蔵にはいたちが棲んでいると聞かされた子供達は昼でも上をも見ずそこを駆け抜けた。仲町の神明様の床下には狸の夫婦が棲んでいて、あっちこっちの台所を荒し廻っていたが、遂に捕えられて、狸汁にされてしまったとか、またその狸汁を食べた人達が二、三年を経ず皆死んでしまったとか、子供達には恐ろしさと珍らしさの入り交った話に聞耳を立てている姿がある。
 昼ごろから、鉢伏山の上に大きく立ち上っていた入道雲が子供達が水浴びから帰ってきて、お小昼の味噌のつけ焼きむすびを噛っているころ、車軸を流すような夕立になって、烈しい稲妻のなかを右往左往、町を通っていた人達か走る。軒場に燕と一緒に駆け込んで来た知り合いに腰かけをすすめながら一緒に空を見上げている店の人達の姿が浮び出す。
 涼しいタ風が、青く透き通った夏ののれんを揺ぶるころになると、糊のきいた浴衣に黒い兵児帯を結んだ子供達か、三々五々神道の夜店に大人達に連れられて集まってくるが、境内の藤棚の下にある八角の大きな水盤に、龍の口から水が落ちている辺りは最も格好な涼み場所で。西側に背を向けた簡単な舞台には毎晩つづきものの浪花節がかかり、大人達が作りつけの床机に腰をかけて、毛ずねをねらってくる蚊を持参の団扇で追い払いつつ聞き入っている。もっともすこし以前は左衛門やデロデン節が流行ったらしい。しかし子供達にとって最も魅力あるものはなんといっても軒を連ねた、よしづ張りの水茶屋の金時水、白玉水か苺水で、夕涼みに大人をひっぱり出したがるのも当然である。思い出は夏の夜から冬の夜につながってゆく。
 しんしんと凍み上った夜の街は雨戸を下して静まり返って、下駄の音だけが疳高く、囲りの塗寵め造りの店の軒先に反響する。それにまじって按摩の笛が突っこ抜けたような寒の星空に消えて行く。薄く降った粉雪が、風にあちこちに吹き散らされる町通りの中央には夕方、わざと水を撒いて氷らせた巾三十糎ばかりの水の筋があって、高下駄で走って来ては、横滑りに滑って行く。大人子供のいたずらに、按摩が滑り転んで怪我をしたとか、草鞄をつけない荷馬車の馬が横倒しに滑って、足でもがいてどうしても起き上がれなかったり、それは一日中、子供達にとっては大きな話題となる。
 昼間の薬種屋の店先きに拡げられた戸板の上に腑分けされたオットセイとか熊が横たえられていて、道行く人にヒビ、アカギレの薬を貝に詰めて売っている。その前には異様なにおいも気にしない子供や小僧達が立ち止って飽かず眺めている。
 そんな風景が断片的に水泡のように後から、後からと湧き上って消えて行くのは昨日の出来事のように思われても、やはり五十年前の昔に見た本町通りの姿には違いない。悠久な歴史のなかのわずか半世紀にも足りない間にも世は激しく移り変って行くのである。
 「本町近代化の歩み」より

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